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想いを重ねる夜2

Auteur: 相沢蒼依
last update Date de publication: 2026-01-14 11:55:52

***

 自転車を必死に漕いで、漁協の倉庫に向かった。見覚えのある建物が見えてきた瞬間から、言い知れぬ不安が胸を支配する。

 穂高さんが俺を攫うように抱きかかえながら、実家を出たのが3月――そこから2カ月しか経っていないからこそ、お父さんとは顔を合わせにくい。こんなに早く逢うことになろうとは……。

 俺たちがどんな場所で生活をしているのか親として気になったんだろうけど、わざわざ俺に連絡までして、自分が来島したのを伝えるなんて思いもしなかった。

 しかも電話の内容――勝手に見て帰るから顔を出さなくていいと一方的に告げるなり、さっさと切っちゃうあの態度。それなら、最初から連絡しなくてもいいことなのに。

 言い知れぬ文句を考えてる間に気がついたら、漁業に辿り着いてしまった。

 自転車を倉庫の脇にきちんと停めて、複雑な心境を抱えながら扉を開け放つ。途端に鼻に香ってくる、海の幸を焼いた匂い。芳しいその香りに、お腹が自然と鳴ってしまった。

「あっ、ちーちゃん。やっと来たね」

「お父さんが待っていたよ、早いとこ顔を見せてあげな!」

 扉を閉めるや否や、おばちゃんたちがこぞってやって来て俺の両腕を強
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  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   愛しさのかたち

    残業で遅くなるという小林に、腕によりをかけた手料理を振舞おうと、恋人の自宅に向かった竜馬の前に、見知らぬ女のコが目に留まった。そのコの足元には、ピンク色のランドセルと、手提げの鞄が置いてあり、明らかに誰かを待っている様子だった。もしかしてと思いながら、竜馬は女のコに近づく。「君、ここで、なにをしているのかな?」 マンションの扉に背をあずけて、立ちつくしているその女のコに合わせて、膝を折りながら目線を合わせると、おどおどしながら竜馬を見た。「……お兄ちゃん、だれ?」「ここの家の人と同じところで働いてる、畑中って言います」 女のコを怖がらせないように、にっこりほほ笑んで答えた。「私は上田愛菜です。パパに逢いに来ました」「パパって、小林さんに?」 竜馬の問いかけに、女のコは真顔をキープしたまま、首を縦に振る。緊張感を漂わせる面持ちから、警戒されていることが、嫌というほどわかった。 小林に娘がいることを、事前に知っていたため、そこまで驚くことはなかったが、突然の来訪に竜馬自身、焦りを覚えた。言葉で騙しがききそうな、幼稚園児ならいざ知らず、小学生となると、そうもいかない。「と、とりあえず中に入ろうか。学校が終わってから、ここに来て、ずっと待っていた感じなのかな?」 ポケットから鍵を取り出して開錠し、中に促そうと試みる。「お兄ちゃんはどうして、パパのお家の鍵を持っているの?」 鍵を開けたことにより、背もたれにしていた扉から離れて、竜馬を見上げる愛菜は、不思議そうな表情で小首を傾げた。(――娘として、そこのところが、やっぱり気になるよなぁ)「あのね、お仕事でいつもお世話になってる小林さんに、お礼をしようと思って、晩ご飯を作ってあげるために、鍵を預かっていたんだ。ちなみにお母さんは、愛菜ちゃんがここにいることを、知っているのかな?」 家に入りやすいように、ランドセルと手提げの鞄を持ってあげながら、小さい背中を押す。愛菜は俯いたまま、なにも言わず、竜馬と一緒に玄関に入った。 黙りこくったことで、母親に内緒で、小林に逢いに来たのがわかった。あえて質問を止めて、違う話題を持ち出すべく、愛菜に優しく語りかけてみる。「ねぇ愛菜ちゃん、愛菜ちゃんがここに来たことを、小林さんに電話してもいいかな? 会社の帰りに、なにかお菓子でも買って、帰って来てもらうため

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで11

    「心一郎さんにもはめてあげる」「ぉ、おう。頼む」 竜馬の問いかけに小林はひどく照れながら、ずいっと左手を差し出した。その手にやんわりと触れて、右手に持った指輪を薬指に押し込んだ。 お揃いの指輪がそれぞれの薬指で煌めく様子を見てほほ笑んだら、小林の左手が竜馬の左手を掴み、ぐいっと躰を引き寄せられた。頼もしくて大きな腕の中に閉じ込められるだけで、安心感にすべてが包まれていく。 顔を上げると引き寄せられるように、愛しい人の顔が近づいてきた。捕まれている左手をぎゅっと握りしめながら、そっとまぶたを閉じる。 数秒後に重ねられた唇。浜辺でしたとき同様に小林の唇はカサついていたけれど、自分とキスしていることをが実感できるそれに、竜馬の胸が疼いてしまった。 誓いのキスのはずが互いに感極まって、離れられなくなっていた。「んっ……」 鼻にかかった竜馬の甘い声が教会内に響き渡って、ハッとした。誰もいないとはいえ公の場での行為に目を合わせながら赤面しつつ、掴んでいた手を放して距離をとった。 妙な沈黙が余計に羞恥心を煽っていく――「竜馬、永遠の愛を誓うのと同じくらいに誓ってほしいことがあるんだけど」 ボソッという感じで告げられた小林の言葉で、竜馬は渋々顔を上げた。「お前の悪い癖が、自分の中にすべてを抱え込んじまうことなんだ」「そうですね……」「これからは嬉しいことや悲しいこと、つらいことも全部、俺に打ち明けてほしい。一緒に分かち合いたいから、どんなことでも」「一緒に分かち合う。これから……」 自分の持つ強い気持ちは人を傷つけてしまうものだという刷り込みが竜馬の中にあるからこそ、誓ってほしいと強請られた瞬間は躊躇してしまった。 でもそれを分かち合いたいと告げられた途端に、その考えは消え去った。大きな躰同様に広い心を持つ小林なら、自分の気持ちを易々と受け止めてくれると分かったから――「分かりました。心一郎さんに俺の全部を預けるんで、よろしくお願いします」 竜馬の答えに小林は満足げに頷き、右手を差し出してきたので迷うことなくその手を繋いだ。「あっ、小林さんっ、忘れ物!」 歩き出した足を引き留めるべく竜馬は繋いだ手を引っ張り、祭壇の上に置きっぱなしにしていた指輪のケースと仕事用の帽子を手にした。指輪のケースはポケットにしまい込み、帽子を格好よく被ってみせ

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで10

    「竜馬、俺を愛してくれてありがとう」 背筋をぴんと伸ばした小林が、自分に向かい合う形でいきなり語り出した。制服の裾を引っ張ったりスボンを意味なく叩いてから、慌てて脇正面を向く。 目の前にいる小林は正直格好いいとは言えなかったが、天井からのスポットライトが顔に陰影を与えている関係で、二割増しにイケメンに見えた。「おまえが傍にいるだけで強くなれることを、何度も実感させられた。ここぞというときに手助けされるせいなのかもしれないが、それでも俺は前よりも強くなれたと信じているんだ」「小林さん……」「これからも変わらず竜馬、おまえを愛していく。永遠に誓うから、ずっと傍にいてくれ」『はい』と一言すぐに返事をしたいのに、うまく言葉にならない。嬉しい気持ちがこみ上げてきて、自然とそれが涙になって表れてしまった。「傷ついた俺の前に現れたのがおまえで良かったと思う。傷ついた過去があるからこそ、包み込むような優しさに救われた。出逢ってくれてありがとう」 浜辺で指輪を渡されたときは自分からプロボーズしてしまったというのに、それを帳消しにするような言葉を告げる小林に、ずっと頭が上がらない。「心一郎さん、俺は……ぉ、俺もずっと愛していきます。傍にいさせてくださぃ……」 涙を拭いながらやっと口にしたセリフを、小林はきちんと聞くことができただろうか――心根の優しい大好きな小林の名前を呼ぶことができただけで、嬉しくて堪らない。「ふふっ、誓いの愛の言葉をしっかりとこの耳に頂戴しました。私がふたりの証人になってあげる。お幸せに!」 安藤の声に顔を上げて横を向いたときには、扉の向こう側に消えていた。「さて、ウルサイのが消えたことだし指輪の交換するか」 祭壇に置いてある指輪のケースから中身を取り出し、小林は竜馬に手を差し伸べる。目の前にある大きな手に、そっと左手を差し出した。 「おっ、今度はサイズがぴったりだな」 スムーズにはめられる指輪を見て、子どものようにはしゃぐ小林を窘めたかったけど、それをせずにじっと薬指を眺める。 緩すぎずキツすぎることのない光り輝くプラチナの指輪は、まるでふたりの関係を表わしているみたいだ。

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで9

    「竜馬ここは手を繋ぐよりも、腕を組んだ方がそれなりに見えるかもしれないぞ」 ちょっとだけ得意げな顔した小林が、掴めと言わんばかりに左腕を躰に当ててきたので、言うとおりにちまっと腕を通してやった。そのとき背後から『ぷっ!』という吹き出す声がチャペルの中に響いた。 ふたり揃って声がした方を向いたら、口元を押さえた安藤と目が合う。「小林ってば偉そうな態度してるけど、駄々っ子みたいに見えるわよ」「うっせぇな。黙って見てろよ」 意気込んでいる小林を横目に、こっそりとため息をついた。 高級ホテルにある立派なチャペルとは相反する自分たちの姿――小林はヨレヨレのスーツ姿で、竜馬は会社で支給されている仕事着に片手には帽子を握りしめている状態。 こんなふたりのために使用後ではあるものの、チャペルを貸し与えてくださった古くからの友人に悪態をつくことができるなんて……。不器用な人だから、ひとつのことにしか集中できないのが分かっているけれど、もう少しだけ配慮を覚えてほしい。 じとーっとした視線を小林に送り続けると、やっとそれに気がついてハッとした表情になった。「……小林さん」 いつもより低い声色に何かを悟ったのか、片側の頬をピクッと引きつらせながら前を向いた。「そ、そろそろ行くぞ」「はい」 耳に聞こえてくるパイプオルガンの音色に合わせるように、ふたり揃って一歩一歩祭壇に向かって進んでいく。バージンロードを踏みしめるたびに、感極まってきて涙腺が緩みそうになった。 その理由のひとつは流れてくる曲に合わせて、頭の中に歌詞が流れるせいだった。 互いに傷ついた過去があるからこそ、やけにそれが胸に染み入るんだ。 祭壇前に辿り着いたら、組んでいた腕を解いてきたのでそれに倣って直立した。 牧師さんがいないこの状況下で、これから小林はどんなことを行うつもりだろうかと内心心配していたら、ポケットに忍ばせていたえんじ色の指輪が入ったケースを取り出して祭壇の上に置く。 その行動で指輪の交換をするんだと判断し、手に持っていた帽子を祭壇の隅っこに置かせてもらった。

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで8

    *** お客様駐車場に車を停め、エンジンを切ってシートベルトを外してから車の外に出ると、早くしろといわんばかりに小林に腕を掴まれた。ふたりでホテルに向かってひたすら疾走する。 竜馬が裏道を使ったお蔭で、約束の時間よりも8分ほど早く到着したというのに、そんなこと知ったこっちゃないという感じで慌てふためく恋人の背中が、なぜだか愛おしく見えた。 ホテルの中に足を踏み入れた途端に走るのをやめて、急ぎ足で二階へと続く階段を駆け上った。帽子を被ったまま豪勢な場所に入ることに躊躇いを感じたので、被っていた帽子を慌てて小脇に挟めた状態で、小林に引っ張られた。 されるがままでいたら、廊下を突き進む小林の足がピタリと止まった。「時間ギリギリって昔と変わらないわねー。疲れた顔したオッサンとイケメンの組み合わせが、すっごく似合わない!」 突き当りにある大きな扉の前にいる女性が、小林に指を差しながら声を立てて大笑いした。「行き遅れた女の笑い声が下品すぎて、疲れが余計に増えたんだ。人の顔見て笑うんじゃねぇよ!」(この人、○○グランドホテルのホームページで見た安藤 薫さんじゃないか!) 竜馬から手を放して両手の腰に当てながら苛立った様子で安藤に近付いていく小林の後ろを、微妙な表情でついて行くしかない。「今さっきここで式を終えたばかりだから、雰囲気が漂っていると思うわ。厳粛なムードもバッチリだと思う」 面白くない顔している小林を見ながら、柔らかくほほ笑んで仲の様子を教えてくれた安藤に、竜馬はぺこりと頭を下げた。「あの、ありがとうございます。ホテルの支配人さん自ら、こんなことをさせてしまって……」「へぇ……。うっかりしている小林の相手らしい、しっかりした人じゃないの。良かったわね」「茶化すんじゃねぇって。竜馬もこんな奴に頭を下げることはないんだ、いい加減にしろよ」 そんな文句を言った小林の頬は赤くなっていて、安藤とふたりでその姿を見て笑ってしまった。「私からふたりへのプレゼント第二弾として、チャペルで流れている曲をプレゼントしてあげるわ。それを聞きながら、永遠を誓ってくださいませ」 安藤が両手で大きな扉を開けると、奥の方にある祭壇が目に留まった。オフホワイトを基調としたあたたかな空間と参列者が座る椅子がバージンロードを挟むようにたくさん置かれていたのだけれど――

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   しあわせのかたちを手に入れるまで7

    *** 午後からの配送を終え、やれやれと思いながら会社に戻った竜馬の目の前に、いきなり小林が現れた。「行くぞ!」「は? えっ!?」 わけが分からないまま小林が竜馬の腕を掴み、強引に外へと連れ出す。そのまま従業員が利用している駐車場に向かって、小林が乗っている白のセダンの助手席に押し込められた。呆然とした竜馬を尻目に、何事もなかったかのように小林は運転席に座るとエンジンをかけた。「もう、いきなり何なんですか?」 車内に響くエンジン音をかき消すような竜馬の叱責に、ちょっとだけ肩を竦める。「怒るなよ、時間制限があって慌ててたんだ。それよりもお前、今日はいつもより戻りが遅かったじゃないか?」「会社のすぐそばの交差点で工事があって、片側一車線通行だったんですよ」「俺が戻ったときにはやってなかったのに。タイミングが悪いな……」 チッと舌打ちして、ハンドルを叩く。「小林さん、質問に答えてくださいよ。出会い頭でいきなりの拉致に時間制限なんて、話が全然見えません」 胸の前で両腕を組み、横目で小林を睨んでやった。そんな竜馬の視線を受け、ありありとバツの悪い顔をする。「古くからの知人に頼み込んで、ホテルのチャペルを貸し切りにしてもらった。時間は午後7時半からの20分間だけ……」「チャペルの貸し切り。手元に指輪がないというのに、これまた先走りましたね」「……用意できてるって言ったら、一緒に行ってくれるか?」 言うなりジャケットのポケットからえんじ色の小箱を出して、中が見えるように開く。そこには、ふたつの指輪が仲良く並んで光っていた。「何で用意されて……。だって出来上がりは来週末の予定だったのに」「お前が宝石店で俺に噛みついただろ。一泡吹かせてやろうと、近くにいた店員にちょっとだけ相談したんだ」「いつの間に?」「竜馬が指輪のサイズを測ってる最中、こっそりとな。その人がなんと店長さんで、一部始終を見ていた経緯も関係して俺の話に乗ってくれた」 得意げに話す小林には悪いが憐れみを感じた店長さんの計らいは竜馬にとって、あまり気持ちのいいものではなかった。それはお揃いの指輪の出来上がりを楽しみに、指折り数えて待っていたせいなのだが――「しっかし、幹線道路の片側交互通行は厳しいな。時間が間に合わないじゃないか」 手にした指輪の箱をポケットに戻し、搭載され

  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下13

    「千秋の職場なら、ここから歩いて十分くらいのところにあるんですよ」 並んで歩きながら告げると、あからさまに顔を横に背けられてしまった。 こんな態度をとられるのは、いた仕方ない。前回千秋のことをかっさらった状態で実家を出てきたのだから。「小さな島ですが、農業も漁業もそれなりに盛んなんです。ですから、千秋の仕事が大変みたいです」「仕事をしているところを見ていないというのに、どうして大変だっていうのが分かるんだ?」 いきなりなされた疑問に、苦笑を浮かべた。何はともあれ、食いついてくれて良かった。「確か従業員の五名で、三百五十人分の書類を捌かなければならないそうですよ。これって相当大変で

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-28
  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下8

    *** 穂高さんが全快して仕事に行くようになってから、いつもの日常が取り戻された。 でも一部だけ、変わったことがあったんだ。「ただいま、千秋っ!!」 扉を開け放ちながら大きな声で家の中に入ってくる穂高さんに、食器を手にしたまま振り返る。ちょうど朝ご飯を食べ終えて、台所に洗い物を運ぼうとしていた矢先だった。 以前は俺が農協に行く直前に帰って来ていたのを、一時的に30分だけ早めに帰れるようにしてほしいと、穂高さんが船長さんに頭を下げて頼み込んだという。 兄弟じゃなく恋人というのを知られたからこそ井上のヤツに強く頼まれてしまったと、船長さんが苦笑いしてあとから教えてくれた。 今回のこ

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下10

    「ううん、大丈夫です。ちゃんと仕事をしていますから」 笑いを堪えながら告げると、うーんと伸びをするような声を出してから小さく笑う。「じゃあ寂しくなって、電話してくれたのだろうか?」 ちょっとだけ緊張している俺を慮って冗談を言ってしまう恋人に、ちゃんと告げることができるだろうか。「……あのね、穂高さん。ついさっき職場に、お父さんから電話が着たんだ」「お父さんから?」 それまで漂わせていた雰囲気が、声色とともに変わっていく。「午前の便のフェリーに乗ってるみたいで、直ぐに帰るから顔を出さなくていいって言われてしまって……。でも今日は俺、どうしても仕事が抜けられないんです」「顔を出

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-27
  • 残り火 After Stage ―未来への灯火―   急転直下

    この日の夕方、穂高さんと一緒に自宅に帰れることになった。 頭の傷によるふらつきや目眩などの症状がなかったので、安心して自宅養生するにあたり、俺のマスク着用とうがい手洗いをしっかりすることを条件に帰してもらえたのだけれど――安定というか、すんなりといかないのはお約束だったのである。 職場にかかってきた周防先生からの帰っていいよという電話を受けて、仕事が終わったらそのまま真っ直ぐ診療所に行こうと考えていた矢先に、またしても俺宛てに電話がかかってきた。「紺野くん、外線一番の電話。漁協のフミさんからねー」 船長さんじゃなくフミさんからの電話に、どうしたんだろうと思いながら受話器を取る。「

    last updateDernière mise à jour : 2026-03-26
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